東京高等裁判所 昭和38年(行ナ)130号 判決
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〔判決理由〕本願実用新案の公報の記載によると、本願実用新案は、精紡機のローラースタンドの軸承部の改良に関するもので、その作用効果は、軸承溝(2)の底面(3)をこれに嵌合するポットムローラー軸(4)の外周に比して長径の円弧面で形成させる構造により、軸(4)を底面(3)と線に近い面で接触する構成とし、それだけ接触抵抗を少なくし、高速回転に適せしめたこと、右の軸承溝底面の軸との接触部分のみをとくに耐摩性合成樹脂片で構成することによつて、高速回転と荷重の摩滅に耐え、常に摩擦抵抗の少ない状態で運転できるようにしたこと、および合成樹脂の弾性を利用し、右耐摩性合成樹脂片を底面中央の凹溝に着脱自在に、かつ、堅牢に挿着することができるとともに容易に取り換えうるようにしたことにあるものと認めることができる(なお、合成樹脂の弾性を利用した点については、前記公報にとくに明記されていないが、<書証>によると、合性樹脂が弾性を有することは本願実用新案の登録出願当時公知の事実であることが認められ、この事実に、前記公報中「実用新案の説明」の項に、耐摩片を合成樹脂により構成したことにより、「耐摩片(6)は凹溝(5)に堅牢に挿着し且容易に取換え得る等の効果を有する。」との記載があり、図面に実施例として、矩形状の凹溝が示されていること、および本願実用新案の前記認定の構造を合わせ考えると、右に記載の作用効果は合成樹脂の弾性を利用したことにより生ずるものであり、作用効果に関する叙上の記載が合成樹脂の弾性利用の技術思想を開示したものであることは、おのずから明らかである。)。
以上認定したところによると、本願実用新案の要旨は前記登録請求の範囲の項に記載されているとおりであり、右は、
(1) 金属製軸承溝(2)の底面(3)をポットムローラー軸(4)の外周に比して長径の円弧面で形成させたこと、
(2) 右底面(3)の中央部に軸(4)の線に平行の凹溝(5)を設け、これに耐摩片(6)を挿着し、その上面を底面(3)の面に沿わせたこと、
(3) 前記耐摩片(6)は、耐摩性合成樹脂を材料とするものとしたこと、
(4) 右耐摩片(6)は、凹溝に着脱自在に挿着するものとしたこと、
を考案の構成要件とし、これらの構成要件を組み合わせてなる精紡機のローラースタンドの構造にあるものと解せられる。
三 ……第一引用例(昭和二五年二月二八日公告)は、精紡機用ローラースタンドの構造に関する実用新案であつて、その実施例として金属性軸承溝の底面をポットムローラー軸の外周に比して長径の円弧面で形成させ、底面の中央部から一方の側壁にかけて、軸の線に平行に凹溝を設け、これに耐摩片としての真鍮製金具を鋳込み、その表面を底面および側壁面に沿わせた構造のものが示されており、また、鋳鉄製ローラースタンドにおいて耐摩片をドブテール式凹溝に嵌め込む構造のもの(したがつて、この場合、真鍮製耐摩片はドブテール式凹溝に嵌め込む構造であるから、着脱自在である。)が第一引用例の登録出願前から公知に属していたことを認めることができる。
次に、……第二引用例(昭和二九年七月一四日公告)は、紡績機におけるアンダークリヤラースプリングの構造に関するものであつて、スプリング主体1の上端近くをU字状に折り曲げ、抱持片2となし、その余端に平坦部3を設けるとともに、「該平坦部3の両側壁4、4を上方に折り曲げ蟻型溝5を設け」、主体1の裏面に補強弾条6を鋲着7し、該弾条6の上端を主体平坦部3の裏面に重ね、その先端部を平坦部3の端辺において折り曲げ、この部分を平坦部3より突き出し、抱持片8となし、かつ、油を湿潤した木質材もしくは「合成樹脂、砲金等で作りたる軸承体9の下面に蟻型突条10を設けこの突条10を前記主体1の蟻型溝5に嵌装し軸承体9の両端側面を抱持片2及び8にて抱持せしめ」た構造のものが示されており、また、軸承体9が摩擦により漸次摩滅したときは、軸承体9を補助弾条6の抱持片8に向け、引き出せば、主体より取り出しえられるので、新たな軸承体9と取り換えうる旨の記載の存することが認められる。さらに、……第三引用例には、軸承材としてのナイロンの荷重および耐摩耗性についての実験に関する記載があり、軸承材として適当であることが示されている。
四 そこで、本願実用新案が第一引用例ないし第三引用例の前記の記載事項から容易に考案することができる程度のものかどうかについて、以下検討する。
1 まず、第一引用例に示されている前記認定の事実と本願実用新案の構成要件とを対比してみるに、第一引用例に公知のものとして示されるものは、耐摩片が真鍮製で、軸承溝底面に設けられた耐摩片を嵌め込む凹溝の形状がドブテール式である(なお第一引用例の考案そのものとしては、凹溝の形状がドブテール式でないものが示されているが、それは本願実用新案と異なり耐摩片を鋳込む構造のものであり、したがつて、耐摩片は着脱自在ではない。)のに対し、本願実用新案においては、耐摩片は耐摩性合成樹脂であり、耐摩片を挿着するための凹溝の形状については特段の限定はなく、矩形状その他の形状でもよい点で両者相違し、その他は一致するものということができる。
2 そこで、右の相違点と本願実用新案の作用効果との関係をみるに、本願実用新案は、前記認定のとおり、耐摩片を耐摩性合成樹脂としたことにより、ボツトムローラー軸の高速回転と荷重のための摩滅に耐えることができ、また、合成樹脂の弾性を使用したことにより、耐摩片を挿着する凹溝の形状について格別の限定を必要とせず、公知のドブテール式でない短形状を可能とし、この場合でも、耐摩片を凹溝に堅牢に挿着可能で、しかも簡単に取り換えうるという作用効果を奏することができるのであつて、従来のものに比し構造が簡単で、その作用効果において格段の差異があることを優に認めることができる。したがつて、本願実用新案は、まさに叙上の相違点に考案の主眼点があるものと考えられる。
3 ところで、さきに認定したとおり第二引用例には、合成樹脂を軸承体そのものとして使用し、かつ、着脱自在にしたもの(なお、第二引用例が紡績機のアンダークリヤラースプリングの構造に関するもので、精紡機のローラースタンドの構造に関するものでない点は、しばらく措く。)が示され、また、第三引用例には、ナイロン軸承体に適する旨の記載が存し、この第二引用例は、合成樹脂を軸承体として用い、かつ、着脱自在にした点において、本願実用新案と一致する。しかし、右第二引用例の場合、軸承体を着脱自在にするとともに確実に固定する方法としては、軸承体を蟻型嵌合するとともにその両端側面を抱持片2および8で抱持するという技術手段を採用しており、本願実用新案のように軸承体の材料としての合成樹脂の弾性を利用したものでないことは、「登記請求の範囲」の項に、軸承体として合成樹脂のみでなく、砲金等を使用するものであるとの記載があること(砲金がその性質上格別の弾性を有しないことは、明白である。)および同号証中「実用新案の性質作用及効果の要領」の項に、軸承体は「蟻型嵌合であると共に両端側面を抱持片2及8にて抱持しているから、主体1に確実に固定され動揺等の虞れなきものである。」との記載のあることに照らして明らかである。そして、軸承体として、合成樹脂の耐摩性のみならず、その弾性を利用したものについては、これを認めるに足る資料はない。
なお、被告は一般軸承メタルの内面に凹溝を刻んでこれに減摩材を埋め込むことは、本願実用新案の登記出願前から公知に属する旨主張し、この点に関し乙第一号証を挙示するけれども、同号証は、軸承部の凹溝に合成樹脂を嵌合して使用するものではあるが、本願実用新案の場合と異なり、合成樹脂を耐摩片としてでなく、潤滑油を浸潤含有せめて単なる潤滑片として用いたものであり、また、右の使用目的からいつて凹溝に緊密に嵌合することは特に要求されていないものと認められるから、合成樹脂の耐摩性ないし弾性を利用した場合の適確な例となし難い。
4 以上に認定したところからすると、本願実用新案は、叙上の第一引用例ないし第三引用例等の公知の事実とその構造および作用効果において十分な差異があり、この公知の事実等を組み合わせたものではあるが、単なる組合せに止まらず、これらを総合応用して、新規な簡易な構造を可能とし、特異な作用効果を奏するに至つたものということができるから、右は旧実用新案法第一条にいう実用ある新規の型の工業的考案をなしたものに当たるというべきである。このことは、<証拠>によると、本願実用新案の「精紡機のローラースタンド」は、在来品に比し、耐摩性、構造の簡易性、性能等においてすぐれているため敷島紡績株式会社、鐘渕紡績株式会社、東洋紡績株式会社、倉敷紡績株式会社等で広く賞用されている事実が認められたことに徴しても十分肯認できるところである。
被告は、本願実用新案は、第一引用例ないし第三引用例等の公知事実を組み合わせることにより当業者が考案できる程度のものと主張するけれども、右主張は前段説示の理由に照らし、到底採用することができない。
五 右のとおりである以上、本願実用新案が前記の各引用例および周知の事実から当業者が容易になしうる程度のもので、旧実用新案法第一条の考案を構成するものと認められないとした本件審決は、結局理由不備の違法があるものといわなければならないから、その取消しを求める原告の本訴請求は理由があるので、これを認容……する。(柳川真佐夫 武居二郎 楠賢二)